フィジカルAI資金調達ラッシュ2026——D-Robotics 4億ドル・中国2兆円、9月にロボットへ資金が集中した理由

スタートアップ

2026年9月、ロボットとAIを掛け合わせた「フィジカルAI」の領域に、巨額の資金が集中しました。香港のD-Roboticsは4億ドルを調達し、中国のPHYMIは設立から半年で約150億円を集めています。日本のAlgomatic Dynamicsも、DMM.comから50億円を調達しました。共通するのは、AIが画面の中から現実の世界へ出ていくための「身体」と「データ」に資金が流れている点です。本記事では、9月に発表された調達案件を軸に、この分野で何が起きているのかを整理します。

2026年9月に動いたフィジカルAIの調達——5件を並べる

まずは9月に発表された主な調達を一覧にします。金額だけでなく、ラウンドと投資家の顔ぶれを見ると、資金の性格の違いが見えてきます。

企業拠点調達額ラウンド主な投資家発表
D-Robotics中国・香港4億ドル(約620億円)シリーズC世界の大手インターネット企業、既存株主9月17日
PHYMI(費莫一科技)中国約1億ドル(約150億円)シードIDG資本、滴滴出行、禾賽科技など9月18日
KinetixAI(超維動力)中国5億元超(約120億円)エンジェル追加テマセク傘下の祥峰投資など9月21日
Algomatic Dynamics日本50億円初回調達DMM.com9月9日
アトム日本30億円シードANRI、ジャフコグループなど国内VC5月27日

注目したいのは、調達までの速さです。PHYMIは2026年3月の設立から半年、KinetixAIは2025年7月の設立から1年あまりで100億円の規模に到達しました。為替や株式の設計が異なるため単純比較はできませんが、シード段階で100億円を超えるのは異例です。3社が中国、2社が日本という並びも、いまの産業構造を映しています。

D-Robotics——4億ドルは「ロボットの頭脳と土台」に集まった

5件のうち最も金額が大きいのがD-Roboticsです。この会社はロボット本体を売っていません。

9月17日、4億ドル(約620億円)のシリーズC完了を発表しました。資金は、あらゆる計算性能の帯を覆う「Sunrise」チップの製品群の強化と、ロボット開発の全工程を支えるソフトウェア基盤の開発に充てられます。2025年11月に発売されたエンボディドAI向けチップのSunrise S600は、発売から6か月足らずで20社を超える顧客企業に採用されました。UBTECHやBooster Robotics、Astribotなどが名を連ね、その多くがすでに量産段階に入っています。

同社の発表によれば、2026年上半期の売上高は前年同期比で数倍に増え、チップの累計出荷数は800万個を突破しました。20カ国以上、500校を超える大学と10万人以上の開発者が同社の基盤でロボットを開発しているといいます。本体ではなく、本体を動かす側に資金が入る。これが半導体と基本ソフトの層で起きていることです。

PHYMI——設立半年、シードで150億円をつかむ

2社目は、2026年3月に設立されたばかりのPHYMIです。

シードラウンドで約1億ドル(約150億円)を調達しました。IDG資本が主導し、雲啓資本や滴滴出行、禾賽科技などが参加しています。創業者で最高経営責任者の劉念邱氏は、自動運転を手がけるDeepRoute.aiで技術パートナーと取締役を務めた人物です。

狙っているのは、決められた場所と手順でしか動かないロボットではありません。ユーザーの目的を理解し、タスクを自分で分解し、環境の変化に合わせて行動を調整し続ける行動型エージェントです。技術の体系は、知覚と意思決定を担うPHYMI BRAIN、本体のBODY、実世界データの循環を担うDATA、人とロボットと環境をつなぐLINKの4要素で構成されています。自動運転で培った動的な実世界を扱う技術が、そのままロボットへ移っている点が面白いところです。

KinetixAI——1つのAIが複数の機体を動かす

3社目は、シンガポール政府系のテマセクが率いる祥峰投資が主導したKinetixAIです。

エンジェルラウンドの追加で、5億元(約120億円)超を調達しました。2025年7月の設立から1年あまりで、チームは200名近くに育っています。2026年4月に発表したフルサイズの人型ロボット「KAI Bot」は、身長173cm、体重70kg、全身で117の自由度を持ちます。付属のハンド「KAI Hand」は37自由度で、指先荷重は30Nを超えます。頭部に装着するデータ収集デバイス「KAI Halo Lite」の重さは約300gです。

最も特徴的なのは、特定の機体に依存しないモデル設計です。同じアルゴリズムを、Unitreeの「G1」やAGIBOTの「遠征A3」など異なるロボット本体でも動かせるとしています。2026年8月の世界人型ロボット競技大会では、香港大学のチームと共同で、卓球の丁寧選手とのエキシビションマッチを披露しました。量産の計画は、2027年末に汎用ヒューマノイドの小規模生産を始め、2028年から段階的に規模を広げるというものです。

日本の現在地——DMMの50億円と、政府の13件

日本でも9月に大きな動きが重なりました。

9月9日、Algomatic DynamicsがDMM.comを引受先とする50億円の調達を発表しました。設立は2026年4月27日ですから、設立からわずか4か月での調達になります。ミッションは「あらゆるロボットに、なめらかさを。」。自社でロボットを1台つくって売る会社ではない、という立ち位置を明確にしています。

柱は3つあります。複数の接触点を同時に感じて把持の戦略を切り替える多指ハンド、不整地や段差でも崩れない二足歩行の制御、そして熟練者の手元を撮影した映像から暗黙知を抽出する技術です。資金の使い道は、研究開発のハードウェアと計算資源。2026年内にはAI多指ハンドのプラットフォームを国内で公開する計画です。出資したDMMの亀山敬司会長は、11年前に始めたロボット事業を6年ほどで撤退した経験に触れ、「リスクは俺が取る」と語りました。

同じ9月9日、経済産業省とNEDOはGENIACでロボット基盤モデルの13件を採択しました。Telexistence、メルカリ、KDDI、日立建機、Highlandersなどが名を連ねます。カメラの情報と指示からロボットの行動を生成するVLAモデルや世界モデルを、実際の機械の自律制御につなげる開発が対象です。政府は「AIロボティクス戦略」で、2040年に約1,000万台のロボット導入を目標に掲げています。

なぜ今、フィジカルAIに資金が集まるのか

背景には、AIの投資マネーそのものの変化があります。

日本経済新聞の集計では、AIスタートアップの資金調達は2026年4〜6月期に4割減りました。金額は大型案件へ集中し、選別が進んだ形です。一方のフィジカルAIは逆を向いています。中国では、IT桔子の集計により、ヒューマノイドを中心とするエンボディドAI関連企業に2026年上半期だけで前年同期比5倍、約935億元(約2兆円)が集まりました。

理由は3つあると考えます。1つ目は、生成AIの成果を物理世界へ持ち出す技術が実証段階に入ったこと。2つ目は、労働力不足という需要がすでに存在していること。3つ目は、データとハードウェアという参入障壁の高い領域では、後から資本で追いつくのが難しいことです。

私が注目しているのは、資金の使われ方がソフトウェアと違う点です。フィジカルAIはGPUだけでなく、実機やセンサー、試作を回す工作環境まで抱え込む必要があります。Algomatic Dynamicsが50億円をハードウェアと計算資源に充てたのは、この構造をそのまま示しています。資金の使い道は、身体そのもの。

【比較表】市場予測が1桁違う理由

市場規模の予測値は、調査会社によって大きく食い違います。数字を並べてみましょう。

調査元対象の範囲起点将来予測年平均成長率
アックスタイムズフィジカルAI基盤と主要ハードウェア2025年 2兆1,810億円2040年 189兆円非公開
MarketsandMarketsフィジカルAI2025年 8.9億ドル2032年 152.8億ドル47.2%
Towards HealthcareフィジカルAI2025年 54.1億ドル2035年 821.3億ドル31.26%
Research and Markets自動運転・医療・農業まで含む2026年 3,830億ドル2040年 3.26兆ドル非公開

差が生まれるのは、何をフィジカルAIに数えるかの定義が違うためです。ヒューマノイドロボットだけを対象にするのか、自動運転車や建設機械、医療機器、農業機械まで含めるのかで、桁が変わります。市場予測を読むときは、金額そのものより対象の範囲を確認してください。方向性は4社すべてで一致しており、年率30〜47%という高い成長が想定されています。

課題——「まだ足りない顧客」と現実世界のセキュリティ

資金が集まるほど、埋めるべき穴もはっきりしてきます。

中国のエンボディドAI分野では、投資額に対して導入先が足りないという指摘があります。2兆円が投じられても、量産されたロボットを買って動かし続ける顧客が同じ速度で増えなければ、在庫と減価償却が残ります。TrendForceは、2026年の中国におけるヒューマノイドの出荷で、UnitreeとAgiBotの2社が合計約8割を占めると予測しています。上位以外の企業にとっては厳しい構図です。

セキュリティも新しい論点になりました。フィジカルAIでは、攻撃の対象がデータやシステムだけでなく、工場のロボットや物流システムといった現実世界に広がります。2026年9月9日に放送されたTBS NEWS DIGの特集では、ハッキングによって制御不能になり、物を壊したり人に危害を加えたりする懸念が報じられました。画面の中の不具合では済まないからこそ、安全設計と認証の仕組みが普及の条件になります。

日本固有の論点もあります。日本経済新聞は、ロボットのコストの5割は関節が占めると指摘しました。モーターや減速機、力覚センサーといった部品を国内で作れることが、日本勢の勝機になり得るという見方です。

【FAQ】フィジカルAIと資金調達のよくある質問

ここでは、フィジカルAIとその資金調達についてよく聞かれる質問をまとめました。

質問回答
フィジカルAIとは何ですか?カメラやセンサーで現実世界を認識し、自律的に判断して機械を動かすAIです。文章や画像を作る生成AIに対し、物理空間で行動する点が異なります。
ヒューマノイドロボットと同じ意味ですか?同じではありません。ヒューマノイドは機体の形を指し、フィジカルAIはその機体を動かす知能を指します。自動運転車や建設機械の自律制御もフィジカルAIに含まれます。
なぜ2026年9月に調達が集中したのですか?個別の事情は各社で異なりますが、生成AIの成果を物理世界へ移す技術が実証段階に入り、投資家が金額を出しやすい局面になったことが背景にあります。
中国が先行しているのはなぜですか?国策としての投資と、部品のサプライチェーン、実証の場が揃っているためです。IT桔子の集計では、2026年上半期だけで関連企業に約2兆円が集まりました。
日本のスタートアップにチャンスはありますか?あります。関節などの部品、現場の暗黙知データ、安全設計の3点に強みを持つ企業が投資を受けています。政府のGENIACも13件を採択しました。

まとめ——「身体」と「データ」に資金が集まる年

9月の調達を並べると、共通点が見えてきます。資金はロボットの本体そのものではなく、身体を動かす知能と、学習に使う実世界のデータに流れています。D-Roboticsのチップ、KinetixAIの機体を問わないモデル、Algomatic Dynamicsのハンドと暗黙知のデータ化は、いずれも同じ方向を指しています。

市場予測は調査会社ごとに桁が違いますが、伸びるという結論は一致しています。次の焦点は、顧客と安全設計です。私の見立てでは、これから問われるのは「何台売れたか」より「どの現場で何時間働き続けたか」になります。

ロボットが街を歩く時代の入り口に立っています。まずは今回の数字を整理して、次の四半期の調達動向を確認してください。そして、気になる企業があれば発表資料に直接あたってみてください。現実世界でAIが働き始める過程を、ここから一緒に追いかけていきましょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました