宇宙で発電し、衛星へレーザーで送る——16歳CEOのZero Industriesと「軌道電力網」が動き出した日【2026】

スタートアップ

宇宙で発電した電気を、レーザーで「届ける」。そんな構想に、2026年10月22日、ひとつの区切りがつきました。カリフォルニア州サンフランシスコに本拠を置くZero Industries, PBCが、プレシードラウンドで300万米ドル(約4.7億円)を調達したと発表したのです。率いるのは16歳のCEO、杉原海氏。設立からわずか6か月での調達でした。

宇宙太陽光発電そのものは、1968年に提唱された古いアイデアです。それがなぜ2026年に、しかも10代のチームによって資金を集められたのか。そして日本では2026年度に、世界初となる「宇宙からの電気を地上で取り出す」実証が予定されています。本記事では、Zero Industriesの事業の中身と、半世紀眠っていた技術が動き出した理由を整理します。

2026年10月22日、6か月の会社が「宇宙の電力会社」を掲げた

Zero Industriesの調達は、リード投資家を前澤ファンドが務めました。参加したのはUntroD Capital Japan、NOW、Midtown、そして複数の個人投資家です。同社の調査によれば、日本のスタートアップが公表したプレシード調達としては過去最高額にあたります。

会社の成り立ちは少し変わっています。米国法人のZero Industries, PBCが本拠を置くのはサンフランシスコ。日本法人のZero Industries Japan株式会社は2026年3月24日に設立されました。米国で資本を集め、日本で技術と人材を固める。この二拠点構造が、最初から設計されています。

掲げるビジョンは「カルダシェフスケールタイプ2文明の実現」です。恒星のエネルギーをほぼ使い切れる文明のこと。規模の話としては途方もありませんが、最初に手がける事業は驚くほど具体的でした。

最初の顧客は「地上」ではなく、軌道上の衛星だった

Zero Industriesの第一事業は、衛星向け送電サービス「Helios」です。宇宙で発電した電力をレーザーに変え、軌道上の衛星へ供給します。構成は3つに分かれます。送電衛星の「Helios Beam」、顧客衛星に取り付ける受電モジュールの「Helios Cell」、送電を管理する運用システムの「Helios Grid」です。

なぜ地上ではなく衛星なのか。理由は現行の衛星設計にあります。人工衛星は機体の太陽電池パネルで発電し、地球の影に入る間は蓄電池に頼ります。この「発電設備と蓄電池の重量」が、観測機器や計算機、推進系に回せる容量を圧迫してきました。

外部から電力を買えれば、そのぶんをミッションに振り向けられます。同社は数百km離れた衛星への送電と、1機から複数の衛星への同時送電を設計要件に置きました。送受電の損失、機器の重量、運用費まで含めて、顧客の自家発電に対する経済的価値を算定する姿勢を取っています。

初期の供給先は地球観測衛星、軌道間輸送機、衛星の点検や修理を担うサービス機です。その後、宇宙データセンター、軌道上の工場、月面拠点へ広げる計画を描いています。

16歳のCEO、19歳のCTO、20歳のCOO

経営陣の年齢には目を引くものがあります。CEOの杉原海氏は16歳。小学生の頃から事業を始め、ウェブ開発からAIサービスまで7社の創業・運営に関わったとされています。宇宙工学、物理学、数学は独学で学んだといいます。

CTOの藤井佑成氏は19歳。高校時代に3年間取り組んだ幾何学で新定理を発見・証明し、英文で発表した経歴を持ちます。全国統一高校生テストの決勝大会で総合1位、高校を首席で卒業し、東京大学工学部へ推薦入学しました。AI採点サービスの創業経験もあります。

COOの谷昊埜氏は20歳。スキー競技で全日本選手権やインターハイに出場した一方、高校時代に機械学習アプリを開発し、全国約100名の一般社団法人を創設しました。慶應義塾大学で学びながら、ケニアでの教育活動やインドネシア留学を経験しています。

若さだけが話題ではありません。アドバイザーには三菱重工業で宇宙太陽光発電部門の立ち上げに関わった安間健一氏と淺田正一郎氏、JAXAに28年間在籍した水野素子氏、スカパーJSATで衛星管制を担った垣内芳文氏が名を連ねます。無線電力伝送の第一線を知る人たちが、技術の妥当性を支える形です。

宇宙太陽光発電は、半世紀前の宿題だった

構想の起源は1968年、米国の航空宇宙工学者ピーター・グレーザー氏が科学誌に発表した論文にさかのぼります。宇宙空間に巨大な太陽電池と送電アンテナを置き、電力をマイクロ波に変えて地上の受電アンテナへ送る。オイルショックの直後には、各国が真剣に検討しました。

日本も例外ではありません。1980年代から組織的な研究が始まり、1990年代には1万kW級の「SPS2000」が設計されました。2000年代にはJAXAと経済産業省が100万kW級のシステムを検討しています。技術の蓄積でいえば、日本の研究機関は世界でも早い時期から動いていました。

それでも実現しなかった理由は、単純にコストです。1970年代の検討では、経済的に成立させるには打ち上げコストを1kgあたり50ドル未満に抑える必要があるとされました。当時計画されていたスペースシャトルでは1kgあたり850ドル。前提が17倍から28倍ずれていました。

潮目が変わったのは再使用ロケットの実用化です。加えて2025年には世界で296回の打ち上げが行われ、4,434基の衛星が軌道に投入されました。年末時点の運用衛星は14,266基。WEFとMcKinseyは、宇宙経済が2023年の6,300億ドルから2035年に1.8兆ドルへ拡大すると試算しています。打ち上げる量が増えれば、軌道上の電力需要も増えます。

日本側の本命「OHISAMA」——2026年度、世界初の地上受電へ

Zero Industriesのような民間の動きと並行して、日本には国家プロジェクトがあります。JAXAと一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構(JSS)などが進めるOHISAMAプロジェクトです。2026年度中の実施が計画され、カイロスロケットによる打ち上げが想定されています。

衛星は約150kg、高度約450km。太陽光パネルの展開幅は約2mで、最大出力は720Wから1kW程度です。この電力を5.8GHz帯のマイクロ波に変換し、フェーズドアレイアンテナで地上の狙った地点へ送ります。地上側では、埼玉県を中心とした半径約40kmの範囲に受電設備を配置します。

受電を担うのは金沢工業大学の伊藤健二教授の研究室が開発したGaAs(ガリウムヒ素)ベースのレクテナです。レクテナとは整流アンテナの略で、マイクロ波を受けて直流電力に変換する装置を指します。薄膜アンテナと組み合わせ、膜状トラス構造の上に実装する設計です。

この実験の意味は「送ること」ではなく「受け取ること」にあります。2023年、米カリフォルニア工科大学のMAPLE実験は衛星から地上へマイクロ波を送り、検出可能な電力の受信に成功しました。ただし宇宙機内でのLED点灯が中心で、地上のレクテナから実用的な電力を取り出した例はまだありません。OHISAMAはその最後の一歩を踏む計画です。

もうひとつ、衛星から小型プローブを放出し、衛星とプローブの間で無線送電を行う世界初の実験も予定されています。マイクロ波が電離層に与える影響の計測も同時に行われます。月周回軌道から月面基地へ電力を送る技術にも、同じビーム制御が使えるとされています。

世界の競合を並べると、勝負は「電力の小売り」だった

この分野は2026年に入って、契約の話に移りつつあります。2026年4月にはサンフランシスコで業界のパネル討論が開かれ、米国の新興3社が相次いで具体的な進捗を明らかにしました。以下が主要プレイヤーの比較です。

企業・機関方式2026年時点の進捗
Zero Industries(米・日本)レーザー(衛星間)プレシード4.7億円。2027年に軌道実証機の設計、2030年に衛星間送電の実証
Star Catcher(米)太陽光の光無線給電シリーズA 6,500万ドル。7件の電力購入契約、商用パイプラインは年30億ドル規模と主張
Overview Energy(米)レーザーMetaと最大1GWの容量予約契約。2028年に軌道実証、2030年に商用供給
Virtus Solis(米)マイクロ波500MW規模の契約条件に署名。24カ月以内のパイロット運用を目標
Reach Power(米)マイクロ波地上向け無線送電は商用稼働中。国防総省が顧客。2027年にNASAと中継機
JAXA・JSS(日本)マイクロ波OHISAMAで2026年度に地上受電実証。2050年に100万kW級の構想

注目すべきは、彼らが売っているものが「衛星部品」ではなく「電力そのもの」だという点です。Star Catcherは既存の太陽電池パネルに向けて集光した光を送る方式で、専用の受電機を必要としません。2025年10月には商用の既製品パネルへ1.1kW超を伝送し、DARPAの過去記録を上回ったと発表しました。2026年5月のシリーズAでは6,500万ドルを調達し、累計調達額は8,800万ドルに達しています。

Metaの動きも無視できません。2026年4月27日、MetaはOverview Energyとの間で最大1GWの容量予約契約を結んだと発表しました。電力供給契約そのものではなく早期アクセス権という位置づけですが、AIデータセンターの電力確保という文脈で、宇宙からの送電が選択肢に入ったことを意味します。

中国は2027年に低軌道での実証を予定し、2050年には複数GW規模の商用化を掲げます。英国はCASSIOPEIA構想を検討してきました。地上の送電網から遠い軍事・防衛用途では、すでに需要が発生しています。

マイクロ波とレーザー、2つの送電方式を比べる

宇宙から電力を送る手段は、マイクロ波とレーザーの2つに大別されます。JAXAは両方の研究を進めており、それぞれの特徴を資料で明示しています。Zero Industriesがレーザーを選んだ理由も、この比較から見えてきます。

項目マイクロ波レーザー
ビームの広がり大きい。地上到達時に20〜40km規模へ拡散小さい。波長が4〜5桁短く指向性が高い
天候の影響雲や雨を透過しやすい雲・雨・大気の影響を受ける
受電設備レクテナを広い面積に敷き詰める受光素子。装置を小型化しやすい
安全性広範囲に分散するため出力密度は低い眼に対する安全配慮が必須
適した用途地上への大電力送電衛星間など近距離・高精度の送電

JAXAが地上向けに選ぶのはマイクロ波です。天候に左右されず、受電側の面積を広く取れるためです。一方のレーザーは、装置を小型化でき、小規模なシステムから段階的に拡張できる利点があります。Zero Industriesが衛星間送電から始めるのは、この「小さく始められる」特性と噛み合っています。

技術の核心は「1マイクロラジアン」の照準

宇宙から狙った場所へ電力を送るには、極端に高い精度のビーム制御が要ります。JAXAの資料によれば、高度数百kmの低軌道から誤差を数十cm以内に収めるには1μrad(5.7×10のマイナス5乗度)の方向制御精度が必要です。静止軌道の36,000kmから数十m以内を狙うなら、0.1μradが求められます。

これを実現する仕組みが巧みです。地上から宇宙機へパイロットレーザーを送り、軌道上でその到来角を検知してビーコンを打ち返す。双方向リンクを確立したうえで、高出力のメインビームを地上へ向けます。地上付近の大気で乱れた光は、FSMと呼ばれる高速駆動ミラーで打ち消します。

JAXAは2016年、高さ約200mの塔の上から地上へ向けてレーザーを照射する実験を行いました。宇宙から地上への経路を模擬した条件で、最大350W、制御精度約2.5μradを達成しています。宇宙から地上への方向にレーザーで電力を送った事例としては、世界で初めてでした。

光源にはファイバーレーザーが有力候補です。溶接や切断用として市販されている10kW級のものが、1070nm付近の近赤外で使えます。受電側はInGaAs系の光電変換素子で電力に戻します。Zero Industriesも光産業創成大学院大学の藤田和久研究室と組み、同じ波長帯の受電素子評価を進めています。

コストの壁——NASAの試算は20倍開いていた

技術の見通しが立っても、経済性の議論は残ります。NASAの技術・政策・戦略室が2024年1月にまとめた試算は、その難しさを数字で示しました。現行技術の延長にある基準シナリオでは、均等化発電原価(LCOE)が0.61〜1.59ドル/kWh。地上の太陽光発電と比べれば桁が違います。

ところが条件を変えると数字は動きます。打ち上げコストや機器寿命などの感応度分析では0.20〜0.50ドル/kWh。さらに6つの条件をすべて満たす複合シナリオでは0.03〜0.08ドル/kWhまで下がります。同じ設計の中で最大約20倍の開きがある計算です。

6条件とは、打ち上げ1回5,000万ドル、太陽電池効率50%、サービス機とデブリ除去機の低価格化、量産による学習曲線の改善、機器寿命15年、電気推進による軌道移動。業界が掲げる50〜100ドル/MWhという目標は、この最良ケースにようやく重なる水準です。

送電効率の内訳も公開されています。アンテナ放射90%、大気透過98%、ビーム捕捉95%を掛けると約84%。ただし衛星内部の直流-高周波変換は70%と前提されており、地上側の変換まで含めた総合効率は別の数字になります。この領域を第三者が検証した例は、まだ多くありません。

日本側の目標も後退しています。JAXAはかつて2030年代に1GW級、1kWhあたり8円という試算を示しました。現在は実現目標を「21世紀後半以降」とし、コスト試算自体は行っていないと説明しています。三菱重工業が2011年の技報で示した400MW級・2030年頃の商用運用も、現行ロードマップとして維持されているかは確認できません。

2035年に「地球上での発電が不要」は、どこまで本気か

Zero Industriesの長期計画は大胆です。2035年に地球上での発電を不要にし、2150年に太陽を囲むダイソンスウォームを完成させる。投資家向けの資料として提示された到達点であり、事業計画そのものではありません。

ただ、足元の工程は具体的です。2026年秋から2027年春にかけて、km級の屋外送電実証と、複数のレーザーを合成して動く目標を追尾する試験を行います。2027年後半には軌道実証機を設計し、衛星バスの選定とレーザー系の宇宙環境適合試験に入る。2030年に初号機で衛星間送電を実証する、という順序です。

私がこの計画で面白いと感じたのは、送電網を「発電・送電・蓄電・決済」の一体システムとして捉えている点です。発電設備を持ち、供給能力を確保し、送電を管理する。顧客は計算設備に集中できる。地上の電力事業と同じ役割分担を、軌道上に持ち込もうとしています。

もっとも、課題は山積しています。受電設備の用地は数km四方に及び、同規模の太陽光発電所と遜色ない広さになります。5.8GHz帯はISMバンドですが、宇宙からの高出力送電に対する国際的な周波数ルールは整備の途上です。デブリ、太陽フレア、運用寿命を終えた設備の廃棄も未解決のままです。

【FAQ】宇宙太陽光発電と軌道上電力網のよくある質問

宇宙太陽光発電と、Zero Industriesが狙う軌道上の電力供給について、よく聞かれる点をまとめました。

質問回答
宇宙太陽光発電はいつ実用化されますか?日本は2050年頃の100万kW級を構想し、米国の新興企業は2028〜2030年の商用供給を目標にしています。ただしコスト次第で時期は大きく動きます。
夜間でも発電できるのはなぜですか?静止軌道では太陽がほぼ常に照射され、1年のうち日食で発電できない時間は1%未満とされます。昼夜や天候の影響を受けにくい点が地上との違いです。
送られてくるマイクロ波は人体に危険ですか?地上では広範囲に分散するため出力密度は太陽光と同程度とされます。ただし長時間浴び続けるのは望ましくなく、レーザー方式では眼への安全配慮が必須です。
なぜ地上ではなく衛星へ送るのですか?衛星は太陽電池と蓄電池の重量がミッション機器を圧迫します。外部給電でその余裕を観測機器や計算機へ回せるため、初期顧客として成立します。
天候が悪いと送電できませんか?マイクロ波は雲や雨を透過しやすい一方、レーザーは減衰します。JAXAは天候予測や複数サイト化を課題として挙げています。
日本企業はこの分野で勝てますか?JAXAと金沢工業大学が長年蓄積したビーム制御・レクテナ技術があり、OHISAMAで世界初の実証を狙います。要素技術の蓄積では優位にあります。

まとめ:エネルギーは「場所」から「サービス」になる

宇宙太陽光発電の議論は、長らく「夢の技術」の枠を出ませんでした。それが2026年、契約と実証の話に変わってきています。Metaが1GWの容量を予約し、米国の新興企業が電力購入契約を積み、日本は2026年度に地上受電の実証を控えています。

私の見立てでは、この分野の本質は発電技術ではなく、電力の届け方にあります。1基の衛星がサンフランシスコ、サンティアゴ、テキサスへ送電先を切り替えられる。地上の送電網が被災しても、別の受電拠点へ振り向けられる。この柔軟性こそが、固定された発電所との決定的な差です。

Zero Industriesの4.7億円は、ダイソンスウォームのための資金ではありません。km級の屋外実証と、受電素子の評価を回すための資金です。それでも10代のチームが「宇宙の電力会社」を掲げて資本を集めた事実は、この分野の空気が変わったことを示しています。

2026年度のOHISAMA、2027年の軌道実証機、2030年の衛星間送電。発表される数字を追いかけるだけでも、しばらく目が離せません。宇宙から電気が届く時代が来るのか、それともコストの壁に阻まれるのか。次の実証結果を、ぜひ注目して確認してください。そして技術の現在地を、一次情報で確かめてみてください。

エネルギーが「どこかで作るもの」から「どこへでも届けられるサービス」に変わる。その最初の一歩が、いま軌道上で準備されています。私たちの生活に届く日を、一緒に追いかけていきましょう。

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