スタートアップの株式は、かつて「IPOまで売れない」のが当たり前でした。ところが2026年、この常識が大きく揺らいでいます。9月1日、日本のセカンダリーマーケット創出を目指す「スマートラウンド証券」が第一種金融商品取引業の登録を完了しました。未上場株の売買仲介が国に登録され、いよいよ本格化する節目です。この動きは、日本のスタートアップの資金循環を根底から変える可能性を秘めています。投資家、起業家、そして株式報酬を受け取る従業員にも、大きな意味を持つ出来事と言えるでしょう。本記事では、未上場株セカンダリーマーケットの現在地と展望を詳しく解説します。
なぜ未上場株が「売れない」時代だったのか
しかし、日本のスタートアップには、長年「流動性の低さ」という課題がありました。日本の未上場株市場は、海外の成熟したスタートアップ市場と比べても流通の仕組みが未整備で、その遅れが指摘されてきました。株式を上場前に売却する場が限られ、投資家はIPOかM&Aまで資金を長期ロックされがちだったのです。この構造は、投資の回転を妨げ、新たな出資を鈍らせる要因にもなりました。資金を長期拘束された投資家は、次の投資に踏み出すタイミングを見失いがちです。特に課題だったのが株式報酬です。エンジニアや経営幹部に付与された自社株は、上場前に換金する手段が乏しく、人材流動の阻害要因となっていたのです。
私も実際、スタートアップで働く知人から「株は持っているけど現金化できない」という話を何度も聞きました。このもどかしさが、未上場株の流通市場を求める声の背景にあります。こうした課題を解消する舞台が、ようやく整い始めているのです。
セカンダリーマーケットとは何か——未上場株を売る3つの手段
セカンダリーマーケットとは、既に発行された株式が投資家間で取引される「売買の場」のことです。世界中のスタートアップ先進国では、この市場が資金調達と並ぶ重要な循環の要として機能しています。上場株式なら証券取引所が担いますが、未上場株はその受け皿が乏しいのが現状でした。現在、日本で未上場株を売買する手段は主に3つあります。それぞれの仕組みと特徴を、順番に見ていきましょう。
PTS(私設取引システム)による取引
PTSは私設の取引システムで、証券取引所を介さずに株式を売買する仕組みです。上場株であれば証券取引所が価格形成を行いますが、PTSはその役割を私設の事業者が担います。ただし登録には厳しい財務要件が求められ、国内での運営会社は2社にとどまります。仲介手数料を収益とするモデルは、上場企業の取引と比べて件数が少ないため、運営コストとのバランスが難しいのが実情です。
株主コミュニティ制度
日本証券業協会が運営する株主コミュニティ制度は、2015年に始まりました。銘柄ごとにコミュニティを設け、発行体の許可を得た投資家同士が、運営会社を通じて取引します。統計では、9社の証券会社が約50銘柄を取り扱い、参加投資家は約26,000人に上ります。インターネットで利用できるコミュニティが登場し、参加のハードルは着実に下がっています。取引量は2022年には約14億円まで伸びましたが、総じて発展途上の制度と言えます。
非上場有価証券特例仲介等業務
そして注目なのが、第一種金融商品取引業の中に設けられた「非上場有価証券特例仲介等業務」です。これは非上場株の売買仲介を専門に扱う免許体系で、スマートラウンド証券が9月1日に登録を完了しました。特定の業務に特化した免許により、より多くの企業がセカンダリービジネスに参入しやすくなったのです。従来の総合的な証券業務ではなく、未上場株に特化した免許を用意することで、専門性の高い仲介サービスが生まれやすくなります。投資家にとっても、取引の透明性や安心感が高まるという利点があります。
| 取引手段 | 運営主体 | 特徴・課題 |
|---|---|---|
| PTS | 民間の2社 | 厳格な登録要件・運営コストが高い |
| 株主コミュニティ | 日本証券業協会 | 約50銘柄・投資家2.6万人の実績 |
| 特例仲介等業務 | 登録証券会社 | 未上場株専門で参入障壁が低い |
2025年から激変——「ミックスディール」の急増
セカンダリー市場の転換点は2025年です。新株発行と既存株の売却を同時に行う「ミックスディール」の公表事例が前年比で大きく増加し、資本政策の手段として定着しました。成長資金を調達しつつ、既存の株主が一部利益を確定できる、バランスの良い手法として広がりました。さらに同年11月には、新株発行を含まない純粋なセカンダリー単独ディールであるSmartHRの事例も生まれています。これらは未上場株の流通が「特別な例外」から「日常の選択肢」へ変わりつつある証拠です。
具体的な事例を見ると、その規模の広がりが分かります。10X、Nstock、ライフイズテック、TERASS、モノグサなど、幅広いステージの企業が既存株主の資金回収を組み込んだ調達を選んでいます。カケハシは約140億円、LegalOn Technologiesは約71.4億円、クラフトバンクは約38億円、Timetreeは約32億円といった取引が2025年に公表されました。スタートアップが成長フェーズにある状態で、既存株主が一部資金を回収できる機会が増えているのです。これは投資家にとっても、リターンを早期に確定できる大きな変化と言えます。
スマートラウンド証券の登録がもたらすインパクト
9月1日の登録は、単なる「1社の開業」ではありません。日本のセカンダリーマーケットが制度化に向けた第一歩を踏み出した印です。スマートラウンド証券は、関東財務局長(金商)第3539号として登録され、今後は日本証券業協会への加入等の手続きを経てサービスを開始します。すでに2025年からミックスディール市場の拡大が続いており、流通の受け皿がようやく整う形です。代表を務める加納拓也氏のもと、セカンダリー取引を中心とした非上場株式の証券サービスを提供する方針です。東京都千代田区大手町に本拠を置き、市場創出へ本格的に乗り出します。
特に重要なのが「ストックオプション(SO)のセカンダリー」です。スマートラウンドは、Helpfeelやアスエネといった企業のSOセカンダリーを支援してきた実績があります。株式だけでなくストックオプションも売買できる舞台が整えば、スタートアップの社員がIPOを待たずにインセンティブを現金化できるようになります。エンジニア独自の視点から見ても、報酬の現実的な価値は魅力を大きく左右します。これは人材確保の競争力を大きく高める要素です。
東証グロース改革と規制が後押しする流れ
制度面でも、セカンダリー市場を後押しする動きが進んでいます。東証グロース市場は、2030年3月から上場維持基準である時価総額基準を厳格化します。事業化に時間がかかるディープテック分野の企業が増える中、上場に至る前に株式を流通させる必要性が高まっているのです。資金調達の場として上場だけに頼らない選択肢が、制度的にも広がっています。成長する企業を上場の枠に無理に押し込めず、未上場のまま育てる土壌が整いつつあります。
日本経済新聞も「スタートアップ、上場前の株取引8倍に」と報じるなど、メディアの注目度も急上昇しています。株主の入れ替えが活発になることで、小粒な上場を回避し、成熟したタイミングでのIPOを目指す企業が増えています。この流れは、日本のスタートアップエコシステム全体の質を高める可能性があります。上場を急がず、十分に育ったタイミングで公募する企業が増えれば、市場全体の信頼も高まります。
セカンダリー市場がもたらす産業へのインパクト
セカンダリーマーケットの拡大は、スタートアップ界隈だけでなく、広く産業に影響を与えます。第一に、投資家の資金回転が改善されます。早期にリターンを確定できるようになれば、その資金が再び新たなスタートアップへ流れる好循環が生まれます。投資の回転率が上がれば、創業期の小さな案件にも資金が届きやすくなるのです。第二に、企業の雇用競争力が高まります。優秀な人材は報酬の現金化を重視する傾向があり、株式報酬の流動性は採用の決め手になります。株式報酬を現金化できる環境は、優秀な人材の獲得と定着に直結するのです。
第三に、リスクマネーの供給が増加する可能性もあります。出口(エグジット)の選択肢が広がることで、ベンチャーキャピタルや事業会社がより積極的に投資するようになるでしょう。事業会社にとっても、有望なスタートアップに出資する動機が高まります。私の体感でも、セカンダリー関連のイベントやセミナーは2026年に入って急増しています。9月1日にも、FINOLABで「日本の未上場株セカンダリーマーケット 現在地と展望」と題したイベントが開催されました。市場への関心は、確実に高まっています。関係者の間では、この市場が日本経済の新たな成長エンジンになるとの期待も広がっています。
今後の展望と残された課題
今後の大きな流れは、セカンダリー取引の「民主化」です。特例仲介等業務の登録が増えれば、より多くの個人投資家が未上場株に触れる機会が生まれます。流通の仕組みが整うことで、資金調達の選択肢も広がります。ある程度の経験や資金を持つ個人投資家にとって、IPO前の魅力的な企業に投資する新たな窓口が開くことになります。一方で、課題も少なくありません。未上場株は情報開示が限定的で、価格算定の透明性が求められます。上場株と比べて流動性が低いため、売却時の値崩れリスクも考慮が必要です。
また、投資家保護の観点も重要です。登録要件の維持や運用の公正性をどう担保するか、今後の実運用が問われます。価格の透明性や情報開示のあり方も、市場が成熟する過程で整備が進むでしょう。利用者を守るルールと、市場の成長を促す仕組みの両立が、今後の大きなテーマになります。それでも、2025年のミックスディール急増と2026年の登録化は、日本のスタートアップ金融にとって間違いなく前進です。未上場株が「持て余す資産」から「売買できる資産」へと変わる日は、すぐそこまで来ています。
【FAQ】未上場株セカンダリーマーケットに関するよくある質問
ここでは、読者の皆さんから寄せられることの多い疑問をまとめました。未上場株投資を検討する際の参考にしてください。
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| セカンダリーとは簡単に言うと何ですか? | 既に発行された株式を投資家同士で売買する場のことです。上場株なら取引所、未上場株は仲介業者などを通じて取引されます。 |
| 未上場株を買うのは誰ですか? | 主にベンチャーキャピタルや事業会社、富裕層などです。スマートラウンド証券のような仲介業者を介します。 |
| ストックオプションを売ることはできますか? | 近年、SOセカンダリーと呼ばれる仕組みで売却できるようになりました。Helpfeelやアスエネなど実例があります。 |
| 株式報酬をもらっていますが売却時期はいつですか? | 従来はIPO後が一般的でしたが、セカンダリー市場の発達で前倒しが可能になりつつあります。 |
| 未上場株投資のリスクは何ですか? | 情報開示が限定的で流動性が低いため、価格変動や売却困難のリスクがあります。専門家の助言が欠かせません。 |
まとめ——未上場株の新時代を迎えて
日本の未上場株セカンダリーマーケットは、2025年のディール急増を経て、2026年に制度化の本格的な一歩を踏み出しました。スマートラウンド証券の登録は、その象徴的な出来事です。投資家の資金回転、人材確保、新たなリスクマネーの供給。この市場の拡大は、日本のスタートアップエコシステム全体に好影響を与えるでしょう。上場を急がずとも資金を回せる環境は、多くの起業家にとって大きな後押しとなります。新しい資金循環の動きを注視しながら、日本の成長産業の行方を見守りたいところです。課題は残りますが、変化は確実に前進しています。
未上場株や株式報酬の売却に興味がある方は、信頼できる仲介業者のサービスを一度確認してください。そして、スタートアップの新しい資金循環を、ぜひ皆さんの投資判断やキャリア戦略にも生かしてみてください。日本の未上場株の新時代を、一緒に追いかけましょう。

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